ボノボ(Pan Paniscus

2012年から、コンゴ民主共和国・ルオー保護区ワンバにて、野生ボノボの調査を続けています。特に、父系の集団形態であるにもかかわらず「メス中心的」で「メスが優位」なボノボの社会がどのように進化してきたのかに疑問を持って調べています。また、集団間の社会関係にも注目しています。

 

Tokuyama & Furuichi (2016) Do friends help each other? Patterns of coalition formation in wild bonobos at Wamba. Animal Behaviour, 119, 27-35.

ボノボのメス間の連合攻撃行動(2頭以上で協力して他個体を攻撃する行動)についての研究です。メスは日常の親和関係にかかわらず、年下のメスがオスから攻撃を受けた時に、年上のメス(達)がそのメスを助けるという形で連合を形成していました。また、1対1ではオスに勝てないメスも、年上のメスに助けてもらうことによってオスに勝ることができていました。(さらに詳しく

 

Tokuyama & Furuichi (2017) Leadership of old females in collective departures in wild bonobos (Pan paniscus) at Wamba. Behavioral Ecology and Sociobiology 71, 55.

ボノボにおいて、どのような個体が移動の方向やタイミングを決定しているのかを調べました。集団移動は、老齢のメスが最初に歩き出し、若いメスやオスたちが追従するという形で起こることが多いことがわかりました。

 

Tokuyama, Moor, Graham, Lokasola & Furuichi. (2017) Cases of maternal cannibalism in wild bonobos
(Pan paniscus) from two different field sites, Wamba and Kokolopori, Democratic Republic of the Congo. Primates, 58(1), 7-12. 

ボノボの母親が死んだ子供を数日持ち運んだ後、死体を食べてしまうという観察をしました。同時期に同じような事例をKoko Loporiで観察したDeborah Moorさんと協力し、2つの事例を報告しました。

                    

Tokuyama, Sakamaki & Furuichi (2019) Inter-group aggressive interaction patterns indicate male mate defense and female cooperation across bonobo groups at Wamba, Democratic Republic of the Congo.  American Journal of Physical Anthropology. 
  ヒトの集団間関係の進化、特に「戦争」の起源を考える上で、しばしばチンパンジーの集団間関係との比較が行われてきました。チンパンジーの集団同士は非常に敵対的で、時には他集団の個体を殺すこともあります。しかし、チンパンジーと同じくヒトと進化的に最も近縁なボノボにおいては、集団間の激しい攻撃交渉は見られず、それどころか異なる集団の個体同士が混ざり合って共に採食をしたり、親和的な交渉を行ったりします攻撃交渉のパターンを集団内で起こったものと集団間のもので比較しました。その結果、集団の異なるオス同士にはメスを巡る競合が存在するが、メス同士は集団が違ってもお互いに寛容であることがわかりました。さらに、攻撃的な行動をしたオスに対して、集団の異なるメス同士が協力して攻撃を加えることもあり、メスは集団を越えた協力関係を築くことができることもわかりました。ボノボは集団内でメス優位な社会を持っています。そのため、オス同士に競合関係があったとしても、メスの意思決定が優先されて寛容的な集団間関係が保たれていると考えられます。(さらに詳しく

 

Tokuyama, Toda, Poiret, Iyokango, Bakaa & Ishizuka (2021). Two wild female bonobos adopted infants from a different social group at Wamba. Scientific Reports, 11:4967.

現代のヒトでは様々な動機により、血縁や過去の交友関係のない子どもを養子にすることがありますが、そのようなことは他の動物、とくに集団の輪郭がはっきりしている霊長類ではほとんど見られません。この論文では、野生ボノボ集団において、メスが他の集団の子どもを「養子」として受け入れ、世話をした2事例を観察し、その詳細を報告しました。ヒトと進化的に近い大型類人猿において、自らの集団以外からの養子縁組が観察されたのは今回が初めてのことです。
さらに詳しく)(Youtube説明動画

 

 

 

 

チンパンジー(Pan troglodytes

    2016年から、ボノボと比較する形で、ウガンダ・カリンズ森林保護区の野生チンパンジーの観察を始め
 ました。攻撃交渉や、集団移動の際にどのような個体がリーダーシップを取るのか、というようなデータ
 を集めています。

 

 

 

      Papers coming soon...

ニホンザル (Macaca fuscata)

2010‐2011年にかけて、京都の嵐山モンキーパークいわたやまで、餌付けされたニホンザルの観察を行いました。

 

Tokuyama & Furuichi (2014) Redirected aggression reduces the cost for victims in semi-provisioned free-ranging Japanese macaques (Macaca fuscata fuscata). Behaviour 151, 1121-1141.

攻撃された個体が、その攻撃に関係がなかった第三者に攻撃するという「転嫁攻撃行動(八つ当たり行動)」について調べました。攻撃を受けた個体は、その後数分にわたってさらに攻撃を受けやすい状態にあることがわかりました。しかし転嫁攻撃を行うと、そのような攻撃を受ける割合が減少していました。ニホンザルは攻撃されたすぐ後に第三者に攻撃することで、自分の立場を敗者から勝者に変え、攻撃を受けたあとの不利な状況から抜け出していると考えられます。